日本の都市ごみ白書

現場の視点から見る 資源ごみの質の低下が収集作業に与える影響

Tags: 資源ごみ, 収集現場, 品質低下, 異物混入, 分別, 課題, 対策

はじめに

都市ごみの問題において、資源ごみの適切な分別と収集は、リサイクル率の向上と環境負荷の低減に不可欠な取り組みです。しかし、近年、ごみ収集の現場では、資源ごみの「質の低下」が深刻な課題として認識されています。これは、資源ごみの中に異物が混入していたり、汚れが付着していたりするなど、再資源化に適さない状態のごみが増加している状況を指します。

資源ごみの質の低下が収集作業に与える具体的な影響

資源ごみの質の低下は、現場の収集作業に多岐にわたる影響を及ぼします。

まず、収集効率の低下が挙げられます。本来資源ごみではないものが混入している場合、作業員はそれを発見し、取り除くか、収集せず残置するといった判断を迫られます。この確認や選別の作業は、通常の収集作業に時間を要するため、ルート全体の遅延につながる可能性があります。

次に、収集車両のトラブルリスク増加です。特に、危険物(例:モバイルバッテリー、スプレー缶、刃物など)や固形物が資源ごみに紛れ込んでいる場合、収集車両の圧縮板を損傷させたり、火災を引き起こしたりする危険性があります。これにより車両の修理費用が発生するだけでなく、収集業務自体が停止する事態も起こり得ます。

さらに、作業員の安全性の低下も深刻な問題です。資源ごみの中に割れたガラス、鋭利な金属片、注射針などが混入していることがあります。これらは、作業員が素手でごみに触れる際に怪我をするリスクを高めます。また、悪臭を放つ異物や汚物などが混入している場合、衛生的な問題も生じます。

現場で直面する具体的な事例

現場では、以下のような質の低下を示す事例に日常的に直面しています。

これらの事例に対応するため、現場では一つ一つごみ袋の中身を確認したり、明らかに分別が間違っている場合は収集せずに残置したりといった対応を取っています。しかし、膨大な量のごみに対して全てを詳細に確認することは現実的に難しく、また残置されたごみを巡って住民の方との間でトラブルになる可能性もゼロではありません。

質の低下の背景と収集員への負担

資源ごみの質の低下の背景には、住民の方々の分別ルールの理解不足や、多忙な生活の中で正確な分別を行う時間がないといった要因が考えられます。また、自治体によってルールが異なることや、ルールの複雑化も影響しているかもしれません。

この質の低下は、ごみ収集員に対して、肉体的な負担(重い異物の持ち上げ、有害物質への接触リスクなど)だけでなく、精神的な負担も与えています。常に危険と隣り合わせであること、住民とのコミュニケーションで誤解が生じる可能性、そして自分たちの作業が質を保てずに無駄になっているのではないかという徒労感などがそれに当たります。

今後の考察と対策

資源ごみの質を向上させるためには、現場の努力だけでは限界があります。自治体によるより一層丁寧で分かりやすい分別ルールの周知徹底や、住民の方々への啓発活動が不可欠です。例えば、具体的な分別方法を写真や動画で示す、なぜ分別が必要なのか、質の低下が収集現場にどのような影響を与えるのかといった情報を積極的に発信するなどが考えられます。

現場としては、安全を最優先しつつ、可能な範囲で住民の方々への声かけや、分別が間違っている場合の丁寧な対応を心がけることが重要です。また、危険なごみに関するヒヤリハット事例などをチーム内で共有し、注意喚起を徹底することも事故防止につながります。

長期的には、AIによるごみ分別システムの導入や、ごみ袋の仕様変更など、技術的な側面からのアプローチも質の向上に寄与する可能性があります。しかし、現状の収集業務においては、排出段階での住民の方々の協力が最も大きな鍵を握っています。

まとめ

資源ごみの質の低下は、ごみ収集の現場にとって効率、安全、作業員の負担という点で無視できない課題です。この問題の解決には、私たち現場の努力に加え、自治体と住民の方々との連携が不可欠です。

私たちごみ収集員は、資源循環という社会的に重要な役割を担っています。質の高い資源ごみが収集され、適切にリサイクルされることは、持続可能な社会の実現に貢献することになります。日々の業務の中で直面する課題を通じて、この仕事の重要性を改めて認識し、より良い収集体制を構築していくための一歩となることを願っています。